2025 カッティングシート、4852cm(全長)
瀬戸内の御影石、庵治石で造られた堅牢で美しい高松市美術館の、南側出口を出て左へ曲がると、美術館とはだいぶ趣の異なる人一人しか通れなさそうな狭い小道が突如現れる。書店倉庫やトタン屋根、ツタが絡まる壁面、プロパンガス、野良猫、とても私的で生活感のあるワクワクする異空間。アートは、アートがあると思わない場所に、アートらしからぬ姿で現れたとき、もっともその本領を発揮できると個人的には思っている。そこで私たちはこの道を、哲学の道のような思索の小径にすることを考えた。
小径に沿った美術館の外壁約50mに、初期仏教のブッダ本人の言葉とされるスッタニパータより第1章第3節「犀の角」をカッティングシートで貼り付ける。「犀の角」は文末に「犀の角のようにただ独り歩め」を繰り返す、悟りへ至るため、全てを捨て、孤独に歩み続けることをひたすら説く詩句である。
個を突き詰めた先に全がある。この狭い路地を「犀の角」を読みながら、ただ独り歩む人は、小道を抜け美術館の反対側に出たとき、何か世界の見え方が変わっただろうか。
展覧会
2025 高松市美術館、香川